私がラジオジプシーだったころ

アメリカ文学とか映画とか。

『ゼロ・グラビティ』を観た

映画『ゼロ・グラビティ』オフィシャルサイト

 

アポロ13』のようにサバイバルする物語なのかと思っていたけれど、良い意味で裏切られた、全然違った映画だった。所謂ハリウッド映画の宇宙モノとしての物語を期待した人にとっては面白くない映画だったんじゃないかと思う。先に挙げた『アポロ13』や『アルマゲドン』みたいに、家族や恋人との愛を中心に据えながら、地球の多くの人たちを描きながら、主人公たちが困難を乗り越えて感動の結末を迎えるという万人に分かりやすい展開ではなく、かといって『コンタクト』のように技術的なリアリティを背景にしながらも、宇宙の(宗教的とも言える)神秘性をテーマとしたサイエンス・フィクションになるわけでもない。

 

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  • じゃあなんなのよ?

もちろん現実的な計算の元に制作された精緻な無重力の映像・音の表現は素晴らしいし(真空なのに音というのも変な話だけど)、3Dの映像品質も高いのでどうしてもそこに目が行きがちだけれども、物語の観点から見ると、この映画は宇宙の話ではない。地球と地球の重力圏に生きる生命の話だ。 

邦題では『ゼロ・グラビティ』と改変されてしまっているけれども、オリジナルのタイトルは『Gravity』である。宇宙空間での無重力の映像表現を売り物にした映画にもかかわらず。なぜならば、それこそが物語の本質だからだ。

 

劇中の表現でも、そして勿論現実にも、宇宙は地球圏の生命にとって殆ど無謀とも言える空間だ。生身の体では血液は沸騰し、一瞬でドライフラワーのごとくミイラになってしまう。散弾のように軌道を周回するスペースデブリは秒速8km以上の速度でスペースシャトルを(ときには人をも)打ち抜く。主人公はその絶対的な否定の力に打ちのめされ、自死さえ考える。

しかし結局は、生命への渇望から地球の重力のもとに還ってくるのだ。地球に帰るという決断とそこからの奮闘のくだりは完全にフィクションだけれども、それを指摘するのは野暮ってもので、素直に楽しめばいいものだと思う。(ただ、ちょっと蛇足だと感じたのは中国の宇宙ステーションと宇宙船の話で、このあたりは最近のワーナーの中国市場重視の戦略なのかな、と思ってしまった。物語としてはあのくだりは必要ないかな。)

 

  •  まとめ

この映画の素晴らしいところは、全ての生命を否定する宇宙空間と、重力を以て生命を庇護する地球との対比の表現だ。「母なる地球」とはよく言ったものだな、と思う。多くの人がそのことを感じ取ってくれるといいのだけれど。